東京高等裁判所 昭和58年(ネ)934号 判決
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【説明】
本件は、宅建業者であるX(原告・控訴人)が、A会社から不動産の売買、賃貸等の媒介の委託を受け、右不動産が「売地である」ことを示すX名義の広告看板(判決理由中で「X主張のような広告看板」と略称している)を現在に掲げ、業界紙等にも広告を載せるとともに、右不動産所在地の近隣に営業所を持つY(被告・被控訴人)の同系列会社Bの営業所長に右不動産の買受け方を勧誘していたものであり、他方、Yは、資材置場用地等とするため右近辺に土地を物色していたが、右広告看板を見、かつ、右営業所長からも話を聞いて右不動産が売地であること、および、A会社が所有者であることを知って、A会社に問い合せたところ、賃貸意思のあること、Xを介さず直接貸借契約を締結してもよい、との回答を得たので、Xの関与なく、直接右不動産につき賃貸借契約を締結したものである。
【判旨】
一控訴人が宅地建物取引業者であること、控訴人がその主張の頃訴外会社から本件不動産の売買の媒介の委託を受けたこと、控訴人がその主張のような広告看板を掲げ、被控訴人が右広告看板を見たこと、被控訴人が控訴人主張の頃その主張のような資料の定めで訴外会社から本件不動産を賃借する契約を締結したことは、当事者間に争いがなく、右実事に原審における証人小林貞雄の証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、次のような事実を認めることができる。
1 控訴人は、前記のとおり訴外会社から本件不動産の売買、賃貸等の媒介及びその管理の委託を受けて、控訴人主張のような広告看板を現在に掲げ、また、業界紙等にその広告を掲載するとともに、本件不動産の所在地の近隣でガソリンスタンドを経営する被控訴人の同系列会社の営業所長橋本某に対しても本件不動産の買受け方の勧誘をしたが、右会社はこれを買受ける意向はなく、具体的な売買交渉に入ることもないままとなつた。
2 他方、被控訴人は、昭和五七年二月頃、第二京浜国道下に共同溝を設置する工事を国から請負い、その資材置場及び作業用地とするため、本件不動産の所在地の近辺で適当な土地を物色していたところ、その従業員の小林貞雄において、控訴人が設置した前記広告看板を見て本件不動産が売地であることを知り、前記橋本某から本件不動産の所有者が訴外会社であることを知つた。
3 そこで、被控訴人は、訴外会社に対して本件不動産を賃貸する意思があるか否かを質し、併せて控訴人を介することなく直接訴外会社と賃貸借契約を締結してもよいのか否かを確認したところ、訴外会社から直接賃貸借契約を締結してもよいとの回答を得たので、同年同月、訴外会社との間において賃料一か月三三万五、四四五円、賃借期間昭和五八年四月までの定めで本件不動産を賃借する契約を締結した。
4 控訴人は、被控訴人と訴外会社とが右賃貸借契約を締結したことを訴外会社から事後に知られたのであつて、右契約締結には一切関与しておらず、また、被控訴人が訴外会社と直接契約を締結したのは、訴外会社が控訴人を介する必要がないとしたためであつて、それ以上の他意はなかつた。
<反証排斥―省略>
二以上の事実関係の下において控訴人の本訴請求の成否について検討すると、不動産の売買、賃貸等の一方の当事者からの仲介の委託を受けた宅地建物取引業者の仲介行為によつて契約が成立した場合であつても、当該業者が委託を受けない当事者のためにもする意思をもつて仲介行為をしたと客観的に認められるなどの一定の事情が存在するときには、当該業者は、委託を受けない当事者に対しても商法第五一二条の規定に基づいて報酬請求権を有し、また、宅地建物取引業者の伸介行為によつて契約締結の交渉が一定の段階まで進められた後において、当事者が仲介の報酬の支払を免れるために殊更当該業者の介入を排除して直接契約を締結するなどし、信義則上当該業者の仲介行為によつて成約をみたものと見なすべきような格別の事情があるときには、当該業者は、なお報酬請求権を有するものということができる。
しかしながら、本件においては、被控訴人は、控訴人の設置した前記の広告看板によつて本件不動産が売地であることを知り、たまたま控訴人がかつて買受方の勧誘をしたことのある訴外橋本某から本件不動産の所有者が誰であるかを聞き知つて、自ら訴外会社と交渉して賃貸借契約を締結したのであつて、控訴人としては被控訴人と訴外会社との間における賃貸借契約に向けて格別の仲介行為をしたわけではなく、また、被控訴人が控訴人を介することなく訴外会社と直接契約したのも、訴外会社の意向に基づくものであつて、仲介の報酬の支払を免れるために殊更控訴人の介入を排除したというのでもないから、控訴人が被控訴人に対して仲介の報酬を請求しうる限りではないのはもとより、被控訴人の右所為を違法なものとすることもできないのであつて、それが不法行為を構成するものではないことも明らかである。
控訴人は、原審及び当審における本人尋問において、本件のような事実関係の下においては、宅地建物取引業者はなお報酬謂求権を有するとするのが業界の慣習ないし慣習法であると供述するけれども、もとより独自の見解であつて、採用の限りではない。
(香川保一 越山安久 村上敦一)